外科手術

どうする尿道・膀胱の腫瘍|犬の移行上皮癌と手術

わんちゃんも長生きするようになり、腫瘍にかかる子が多くなっています。

人と同じで、いろんな場所にできます。

ほんとどこでもできます。体の表面、肺、肝臓、腸などなど

 

できる場所によってはかなり厄介なのです。

特に膀胱や尿道。

ここに腫瘍ができると、おしっこが出なくなったりします。

 

おしっこが出ないと言うのは大変な苦痛ですし、

すぐに命にかかわります。

 

膀胱の悪性の腫瘍のほとんどは移行上皮癌という癌です。

この腫瘍がとにかく尿道、膀胱つたいに広がります。

手術でとる上では中途半端ではすぐ再発します。

なので膀胱や尿道を丸ごととる事も多くあります。

 

しかし腎臓で作られたおしっこを体の外に出してあげないといけないので、

あの手この手で何とか新しい尿の出口を作ります。

 

今回は尿道にできた移行上皮癌の子のお話です。

 

 

 

 

 

 

13歳の元気なヨーキーの子です。

お腹の方は大した事は無さそうです。

しかし…前立腺が大きい。

前立腺は膀胱近くの尿道にくっついています。

本来去勢手術をしている子は、すごく小さいのが普通です。

 

この子はというと

3センチ程度あります。

明らかに異常です。

去勢しているのに前立腺が大きい時は、感染を起こしているか腫瘍の事が多いです。

この部位の腫瘍は前立腺癌か移行上皮癌(どちらも悪い癌です)

早急に確認が必要です。

 

いきなりお腹をあけて手術するような事は避けたいので、

尿道にカテーテルを入れて細胞の検査をする事にしました。

 

結果は…悪性度の高い細胞がとれています

残念ながら、エコー所見等もあわせると移行上皮癌の可能性が考えられます。

 

他に転移がなく、下痢でエコーをあてて偶然みつかった癌です。

普通はこの段階で見つかる事は少ないのです。

 

 

飼い主さんとどのように治療するか相談です。

移行上皮癌とすれば

①抗癌剤で治療

②消炎剤のみの内服

③手術+抗癌剤

 

の3つの治療が考えられます。

ここが非常に悩みどころです。

 

①抗癌剤で治療

平均的に1年くらい頑張ってくれます。

割と抗癌剤が良く効くタイプの癌です。

しかし完治はしないので、転移したり腫瘍が大きくなって

おしっこが出なくなる事があります。

 

②消炎剤のみの内服

ある程度の効果が見れれますが、抗癌剤には及びません。

副作用がでにくいのがメリットです。

いつかはおしっこが出なくなる時がきます。

 

③手術と抗癌剤

唯一完治させられる可能性のある治療方法です。

膀胱や尿道を全部とって、包皮の所に尿管をつなげ直します。

膀胱がなくなるので、おむつが必要になります。

手術はやや難易度の高い手術になります。

 

 

さて、このこの場合は、幸運にも初期に見つけられたのと

完治できる可能性があるなら手術をと言う事で③を選ばれました。

 

 

手術はというと無事に終了しました。

膀胱と前立腺、尿道を切除します。

 

腎臓からつながる尿管は包皮に穴をあけてつなげます。

ここから腎臓で作られたおしっこが出てきます。

ここに尿管を縫い付けるのが意外に大変です。

尿管は1−2ミリしか太さがないので、

拡大鏡でみながら髪の毛より細い糸で縫っていきます。

 

手術後にスムーズにおしっこがでて、快適に生活を送ってもらいたいので、

丁寧に縫合します。

手術の画像が開きます。
苦手な方はご注意ください。

 

手術後おしっこもスムーズにでて、

今は1年数ヶ月経ちますが再発も転移もなく過ごしています。

 

 

 

もう1人同じようなチワワの子がいます。

この子はおしっこの回数が多いと言う事で来院されました。

膀胱炎かな?

と思いエコーでみて見ると前立腺が大きい、それに膀胱のごく一部が腫れている。

もちろんこの子も去勢済みで、前立腺が大きくなったりする理由がありません。

やはり移行上皮癌があやしい。

 

同じようにカテーテルで細胞をみてみると、癌とは断定しきれないけど

悪性を疑う細胞です。

 

最近は移行上皮癌では遺伝子の異常が起きていることが多く、
遺伝子異常があるとかなりの確率で癌です。

BRAF変異検査といいます。

 

細胞を遺伝子検査にかけてみました。

やはり遺伝子の異常がありました。

 

この子も治療の方針をよくよく飼い主様と相談しました。

かなり悩まれていましたが、手術を決断されました。

それは当然悩みますよね。

 

自分の飼っている子ならどうするかをよく考えます。

このケースは自分の子なら手術すると思います。

 

手術は地道な作業の連続です。

尿道に浸潤している可能性が高いので、

陰茎から膀胱までひとまとめでとります。

ちょっと刺激が強い画像なので、苦手な方は飛ばしてください。

手術の画像が開きます。苦手な方ご注意ください

 

包皮から陰茎を外します。

その後出血と尿道を傷つけないように注意して進めます。

 

骨盤の一部を外します。

骨盤の奥がどうしても見えないのです。

 

お腹のなかの膀胱と前立腺への血管を糸で結んだり、

電気メスで凝固したりしてとめていきます。

そして全て止めたら尿管を、膀胱の近くで切ります。

手術の画像が開きます。苦手な方ご注意ください

尿道や膀胱をひとまとめにして外します。

 

お腹をとじて開けておいた穴から尿管を引っ張りだします。

引っ張りだした尿管を、細い糸で包皮ひ縫合していきます。

手術の画像が開きます。苦手な方ご注意ください

 

縫合し終えて新しい尿の出口からおしっこが出る事を確認して終了です。

手術時間は4−5時間です。

 

この子も術後数カ月経ちましたが、おしっこもスムーズに出て良好です。

 

 

大きな手術は、飼い主さんにとっても動物にとっても大きな決断です。

その子が快適に長く生きてくれるなら、その決断の勇気に答えられるよう

精一杯手術します。

 

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岐阜市柳津町丸野4−17−1  はづき動物病院 

 

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